Subdominant Minorについて

はじめまして。

僕にとって、記念すべき?第1回目のコラムです。

ここでは、音楽に関することを中心に、徒然なるままに綴っていこうと思っています。
興味のある方は是非おつきあいください。

どうぞよろしくお願いいたします。

いきなりSubdominant Minorについて!、というのもなんなので軽くおさらいしてみます。
みなさん、Modal Interchangeのことはご存知ですか。

曲の主調において、同調の他のモード(スケール)からダイアトニックコードを借りてくることをいいます。


人によっては、転調の一種であるという人もいますが、僕にとってはあまりそのようには聞こえません。
なぜなら、大抵の場合1、2小節、長くても4小節くらい現れて、再び主調のダイアトニックコードに
戻るためです。
抽象的ですが、同じ景色の中で、時間の流れとともに変わる心象、といったイメージでしょうか。

たとえば、C minorのKey(調)において、CのMelodic Minor ScaleやHarmonic Minor Scaleの
ダイアトニックコードであるV7がある場合。
Jazzのスタンダード曲でおなじみですね。

本来、Natural Minor ScaleにはTritoneが含まれていないため、I minorに帰るときの終止感が弱く聞こえます。
そこで、Melodic Minor ScaleやHarmonic Minor Scaleから借りてくるわけです。
実際に、IImin7b5-Vmin7-Imin7とIImin7b5-V7-Imin7を弾き比べてみれば違いはすぐにわかると思います。
ドイツの作曲家、というより西洋音楽の父であるバッハの曲を聴くと(弾くと)、
このような場面がいっぱい出てきますし、
僕が大好きな曲のひとつである、アントニオ・カルロス・ジョビンのHow Insensitiveもそうです。

徐々に今回の本題に入りましょう。

みなさんは、アドリブを弾くとき、もしくは作曲をするときに、このModal Interchangeについて、
どのくらい気になさっていますか?

かくいう僕も、minor Keyのスタンダード曲を演奏していて、IImin7b5-V7-Imin7と出てきたら、
Modal Interchangeだ!というより、標語(ツーファイブ)だ!という感覚になる時もあります。
しかしながらこのような場面では、あきらかに違います。

Major Keyの曲中にSubdominant Minorのコードが出てきた時。

心に響くポップスには、必ずといってもよいほどあったような気がします。
そう、例の ”切ない気持ちになる〜” といわれる?やつです。
なんの事だかわからない!という人は、Bill Frisellのエンディングソロが印象的な
"God Give Me Strength"(album "The Sweetest Punch" by E.Costello&B. Bacharach)
を聴いてみてください。唄いまくっています!

僕はこういったSubdominant Minorの美しい響きが大好きです。
最初にそれを認識したのは、小学2年生の時に父に連れていってもらった映画、007"ムーンレイカー"の
オープニング主題歌を聴いた時でした。
歌が入って3〜4小節目にかけての、なんともいえない幻惑的な美しい響き。
映画を見終わってからしばらくの間、このメロディーを口笛で吹いていました。

もともとショパンのピアノ曲をはじめ、ロマン派の楽曲が好きだということもありますが、
Subdominant Minorの響きを聞くとなぜか、幼少期の楽しかった思い出がよみがえります。

さらに、メロディーの中にKeyのナチュラル3rdの音が入っている時。 

涙腺が緩みます。

みなさんがよくご存知?のスタンダード曲(ほとんどがその当時の代表的なポップスです)を
幾つかみていきましょう。
譜面は比較しやすいように、全曲Key=C Majorに移調させています。
なお、原曲がどうなっていたかを検証するため、出来る限り発表年に近いものを採譜しました。

まずは、Days Of Wine And Rosesの7〜8、23〜24小節目、

これは、元となった映画"Days Of Wine And Roses"のオープニングテーマの一部を採譜しました。

IVmin6の場面でまさに、Subdominant Minorの特徴である、Keyの♭6thのA♭音に加えて、
ナチュラル3rdのEの音が含まれていますね。
音階でいうと、F Melodic Minor Scaleということになります。

これが、IVmin7だとしたらどうでしょう。
音階でいうと、F Dorian Scaleということになるのでしょうが、

それまでずっとKeyのナチュラル3rdのE音が使えるのに、
わざわざ♭3rdのE♭音にしてminor感を出す必要が果たしてあるのでしょうか?
残念ながら、そういうアドリブをとるJazz Musicianは少なからずいます。
特にBe Bopからの影響が強いと思われる人たちには・・・・・。
アドリブなんだから、何を弾いても構わないじゃないか!といわれるのもわかります。
しかしながら、もしこの ”Days Of Wine And Roses” のIVminorのところで、
メロディーがE♭だったとしたら・・・・映画同様、お酒でも飲んで酔っ払わないと聴けませんね。
Major Keyの曲中において、一番盛り上がる場面で使われることの多い(主観です)、
このIVminorのなんともいえない美しい響きは、Keyのナチュラル3rd音と♭6th音によってもたらされている、
といっても過言ではありません。

他の曲も見てみましょう。

次はStella By Starlightの21〜22小節目、

1945 Decca Record Victor Young & his Concert Orchestraより採譜。

ここでも主調のナチュラル3rdのE音がこれでもかと伸びています。ちなみに22小節目4拍目のB音は、
IMajorにかかるApproach Note(Leading Tone)だと思います。

まだまだあります。
It Could Happen To Youの10小節目と26小節目、

1944 Bing Crosby with John Scott Trotter Orchestraより採譜。

The Song Is Youの終わりから数えて9小節目(56小節目にあたる)、

Frank Sinatra "The Columbia Years"より採譜。

Cherokeeの7小節目、

1938 Ray Noble and His Orchestraより採譜。

Out Of Nowhereの28小節目、

1931 Ruth Ettingより採譜。
このVersionを聴くと、ベース音がFを鳴らしていないようなので、IImin7b5としました。

The Shadow Of Your Smileの26小節目、

1965年の映画The Sandpiperのオープニングテーマより採譜。

Corcovadoの25〜26小節目、

The Composer Of Desafinadoより採譜。

Desafinadoの終わりから数えて11小節目(58小節目にあたる)、

Joao Gilberto "Chega De Saudade"より採譜。

ざっと幾つか列挙しましたが、探せばまだまだあると思います。
There Will Be Never Another Youの10小節目と26小節目もそうですね。
All Of Youなどは出だしからそうです。
少なくとも、これらの曲においてはIVmin7ではなく、IVmin6と考えるべきでしょう。
ここまで言っておきながら弁明するのも、往生際がわるいのですが、
けっしてIVmin7を全否定するつもりはありません。
曲により、IVmin6よりIVmin7のほうが良い場合もあるでしょうし、
メロディーにKeyの♭3rd音が、経過音としてではなく入っていれば、
間違いなくIVmin7です。

僕が普段活動をともにしているJazz Pianist、Take Murakamiさんのオリジナル曲中には、
Subdominant Minor Chordがたくさん出てきます。
しかもIVMajor-IVminor-I Majorのようなものばかりではありません。
むしろこの形ではあまり出てこないかも・・・・・。
詳しくは別の機会にしたいのですが、Harmonic Major Scaleから派生するChordがよく出てきます。
あまり馴染みのない?音階名だと思いますが、この音階は、Major Keyにおいて
もっともSubdominant Minorらしい音階といっても過言ではないです。

なんといっても6度の音が♭しているだけですから。
ちなみにMelodic Minor Scaleは、Keyの♭6thに加えて♭7thの音も含まれます。

手前味噌になりますが、僕も参加しているTake Murakamiさんのアルバム、
”Take One””Take Two””Take Zero”、 は本当に素晴らしいアルバムです!
オーケストラを使い、対位法を駆使した壮大な雰囲気をもつ曲もあれば、
おもわず口ずさみたくなるようなメロディーを奏でる曲もあります。
どの曲にも共通していることは、主題のメロディーがとても印象的であることと、
リズムのアイディアが多様なこと。
このブログを読んで、もし和声(ハーモニー)のことに少しでも興味をもたれた方は是非聴いてみてください。

最後に再び申し上げますが、
みなさんも、Major KeyのIVminorにおいて、
メロディーにKeyのナチュラル3rd音が入っていた場合は、

まずは、IVmin6、Melodic Minor Scaleを意識してみてください。

このSubdominant Minorの美しい響きを、一人でも多くの方と共有できれば幸いです。

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